#3 ジュエリー製造における「ロウ付け加工」とは?

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「ロウ付け加工」という言葉を聞いたことがありますか?
ジュエリー製造の世界では欠かせない、金属同士をしっかりと接合するための重要な工程です。

でも、「溶接とは違うの?」「ロウってロウソクの蝋?」と疑問に思う方も多いはず。
実はこの「ロウ付け」は、温度・金属・化学の知識が融合した繊細な職人技。一見地味に思える作業ですが、ジュエリーの強度や美しさを支える縁の下の力持ちなんです。

この記事では、業界外の人でもわかるように、ロウ付けの仕組み・原理・工程・種類などをわかりやすく解説します。

「ロウ付け」とは何か?

まず、「ロウ付け(Brazing)」とは、金属同士を接合するための加工技術のこと。
ただし、溶接と違って母材(くっつける側の金属)を溶かさないのが特徴です。

代わりに「ロウ」と呼ばれる母材より融点の低い金属(合金)を使い、それを熱で溶かしてすき間に流し込み、冷却・固化させて接合します。

  • ・ 溶接・・・母材を溶かして一体化させる
  • ・ ロウ付け・・・母材は溶かさず、溶かしたロウ材で接着する

つまり、ロウ付けは“はんだ付け”に近いイメージです。
細かな装飾品や電子部品など、精密で熱に弱いパーツを扱うときに最適な方法なんです。

「ロウ」とは?─―ロウソクではなく“金属のり”

ここで言う「ロウ」は、もちろんロウソクのロウ(蝋)ではありません。
「ろう材」と呼ばれる金属の合金で、金属と金属をつなぐ“のり”のような役割を果たします。

用途主な成分融点(℃)特徴
銀ロウ銀・銅・亜鉛など約600〜800℃ジュエリーで最も一般的。強度と色味のバランスが良い
金ロウ金・銀・銅など約700〜900℃金製品の接合に使用。色調を合わせやすい
銅ロウ銅・リンなど約700〜850℃強度が高いが色が濃く、貴金属には不向き

ジュエリーの世界では「銀ロウ」「金ロウ」が主に使われます。
ロウの種類によって融ける温度が違うため、製品の素材や形状に合わせてロウを選定する必要があります。

ロウ付けの原理──なぜ金属は“くっつく”のか?

ロウ付けは、単なる「のり付け」ではありません。
金属同士をくっつけるには、金属原子レベルでの「濡れ」と「拡散」という科学的な現象が起きています。

・ 濡れ(ぬれ)

ロウが溶けて母材の表面を覆うように広がる現象。
これがうまくいくと、金属の表面とロウの間に強固な密着が生まれます。

・ 拡散(かくさん)

高温状態では、母材とロウの間で原子が少しずつ移動(拡散)します。
これにより、境界が原子レベルで結合し、強固な金属接合部ができるのです。

つまりロウ付けは、「金属の分子レベルでの握手」みたいなもの。
きれいに濡れ、適切な温度で加熱し、冷却のタイミングを見極めることで、美しく強い接合が完成します。

ロウ付けの基本構造

ロウ付けは、以下の3つの要素から成り立っています。

  1. 母材・・・金・銀・プラチナなど、接合したい本体
  2. ロウ材・・・母材より融点の低い金属
  3. フラックス(助剤)・・・酸化を防ぎ、ロウの流れを良くする薬剤

この3つがうまく組み合わさることで、金属同士がしっかりと結合します。

ロウ付けの工程

ここでは、ジュエリー製造の現場で行われる一般的なロウ付け工程を紹介します。
(ここでは、シルバーリングを例に説明します)

① 接合面の調整

まず、くっつける金属の断面をきれいに研磨し、油分や酸化膜を除去します。
これを怠るとロウがうまく流れず、接合が弱くなります。

② フラックスの塗布

次に、「フラックス」と呼ばれる酸化防止剤を塗布。
加熱中の酸化を防ぎ、ロウの流れを助ける役割があります。

③ ロウの配置

接合部分に、小さく切った「ロウ片(チップ)」を置きます。
ジュエリー職人はロウのサイズと配置位置をミリ単位で調整します。

④ 加熱

バーナーの炎や炉でゆっくり加熱します。
ロウだけが溶けて母材の隙間に流れ込み、毛細管現象で均一に広がります。

⑤ 冷却・洗浄

加熱が終わったら、自然冷却または水冷します。
その後、酸洗い(ピクル液)で表面の酸化膜を除去して完了。
これで、目には見えないほど滑らかに接合された金属の一体化が完成します。

ロウ付けの種類──手作業から自動化まで

ジュエリー業界では、製品やロット数によってロウ付けの方法が変わります。

・ 手作業ロウ付け(トーチロウ付け)

熟練職人がバーナーで火を当て、目で温度を判断しながら行う方法。
1点もの、試作品、繊細なデザインに向いています。まさに「職人技の象徴」です。

・ 炉中ロウ付け(連続式水素炉など)

大量生産向けの自動ロウ付け。
部品をカーボン治具に並べ、ペースト状のロウを塗布し、水素雰囲気中で加熱・冷却します。
酸化が起きず、仕上がりも均一。イヤリングやクラスプなどの精密量産品でよく使われます。

・ 超音波ロウ付け・真空ロウ付け

より精密な製品では、熱や空気の影響を最小限に抑える方法も。
電子部品や医療器具、ハイエンドジュエリーの分野で応用されています。

ロウ付けが支えるジュエリーの品質

ロウ付けは一見地味ですが、ジュエリーの耐久性・美観・構造を決める非常に重要な工程です。

  • ・ 小さな爪(ストーンセッティング)を固定
  • ・ リングの円環を閉じる
  • ・ チェーンのコマを連結する
  • ・ クラスプ(留め具)を一体化させる

このように、ジュエリーのあらゆる部分でロウ付けが活躍しています。
接合が不十分だと、着用中にパーツが外れたり、石が落ちたりすることも。
まさに「見えない部分が品質を決める」工程です。

ジュエリー製造におけるロウ付けの役割

ジュエリー製造では、驚くほど多くの場面でロウ付けが使われています。

たとえば──

  • ・ リングの輪をつなぐとき
  • ・ ピアスのポスト(軸)を本体に固定するとき
  • ・ ネックレスのチェーンを閉じるとき
  • ・ クラスプ(金具)やパーツを組み合わせるとき

など、ほぼすべてのジュエリーがロウ付けで成り立っています。
見た目は1つの形に見えても、実際には複数の小さなパーツをロウ付けで組み上げているのです。

ロウ付けに求められる技術力

ロウ付けは、単純に「熱でくっつける」だけの工程ではありません。
温度、ロウ材の量、加熱時間、炎のあて方、そして部品の位置関係、そのすべてが仕上がりを左右します。

ジュエリーは数ミリ単位の世界。
0.1秒の加熱ミスでロウが流れすぎたり、母材が溶けてしまうこともあります。そのため、職人は長年の経験と勘で「最適な瞬間」を見極めています。

自動化・量産ラインでのロウ付け

現在では、手作業だけでなく、自動化されたロウ付け設備も使われています。

たとえば、連続式水素炉による雰囲気ロウ付け。
これは酸化を防ぐために水素ガスを満たした炉内でロウ付けを行う方法で、ペースト状のロウ材をあらかじめ部品に塗布し、自動的に加熱・冷却する仕組みです。

この方法により、

  • 品質の安定化
  • ・ 作業の均一化
  • ・ 小ロットから量産まで対応

といったメリットがあり、近年はジュエリーOEMメーカーなどで広く採用されています。

ロウ付けがもたらす「美しさ」

ロウ付けの真の価値は「目に見えない美しさ」にあります。
たとえば、リングのつなぎ目が見えないほど滑らかに仕上がっているのは、職人が正確にロウを流し、磨き上げているからです。

ロウ付けが丁寧であるほど、

  • ・ 石留めの位置が正確
  • ・ 強度が高い
  • ・ 長年使用しても変形しにくい

といった、ジュエリーの「品質の土台」が整います。

ロウ付け・はんだ付け・溶接の違いとは?

「ロウ付け」「ハンダ付け」「溶接」――どれも「金属を熱でつなぐ」という点では同じです。
しかし、大きく違うのは“どのくらいの温度で、何を溶かしているか”という部分です。

比較項目ロウ付けはんだ付け溶接
方法母材を溶かさず、ロウで接合母材を溶かさず、ロウで接合母材を直接溶かして一体化
温度約600〜900℃程度約200~400℃程度約1,500℃前後
強度中〜高(用途による)低い非常に高い
用途ジュエリー・精密部品など、美観・気密性重視電子基板・配線など、精密な接合建築・機械・車両など、強度が必要な構造物

温度が上がるほど、より強固な接合が可能になります。
しかし同時に、変形・歪み・焼けなどのリスクも増えるため、どの方法を使うかは「用途」によって決まります。

まとめ

ロウ付け加工は、金属をただ“くっつける”ための作業ではありません。
そこには、金属の種類・温度・流れ・化学反応をすべて理解した上で行う繊細な技術があります。

美しいジュエリーが長年愛用に耐えるのは、こうした見えない部分で職人たちが精密なロウ付けを行っているからです。

金属の輝きの裏に、「熱」と「科学」と「技」の結晶がある。それを知ると、いつもの指輪やネックレスがちょっと特別に見えてくるかもしれません。

       
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