#5 日本の宝飾産業の中心地とその特徴

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日本のジュエリー(宝飾)産業には、全国的にも名の知られた「三大産地」と呼ばれる地域があります。
それが、山梨県甲府市東京都台東区御徒町、そして兵庫県神戸市です。

それぞれが異なる歴史と役割を担いながら、日本の宝飾文化を支えてきました。
この記事では、そんな「ジュエリーの街」の成り立ちと特徴を、専門用語を噛み砕きながら解説していきます。

宝飾産業とは?

まずは全体像を整理しましょう。
宝飾産業とは、貴金属や宝石を使ってアクセサリーやジュエリーを製造・販売する業界のこと。
原石の輸入からデザイン、加工、組み立て、販売まで、じつに幅広い工程が含まれます。

大きく分けると以下の3つの流れがあります。

  1. 素材を扱う分野・・・地金や宝石の輸入・販売
  2. 製造を担う分野・・・デザイン・鋳造・ロウ付け・研磨など
  3. 流通・販売を担う分野・・・卸売・小売・ブランド運営など

日本の宝飾産業の中心地は、それぞれがこのどれかに強みを持っています。
では順に、代表的な3地域を見ていきましょう。

甲府(山梨県) — 宝飾加工の街としての誇り

水晶細工がルーツ

甲府の宝飾産業の起源は、江戸時代中期にまでさかのぼります。
当時の甲府周辺は水晶の産地として知られ、山から採れる天然の水晶を磨いて装飾品や念珠(数珠)に加工する職人が多くいました。

この「水晶研磨技術」が、やがて宝石のカットや貴金属加工へと発展していったのです。

明治期に発展、昭和期に黄金時代へ

明治以降、西洋文化の流入とともに「宝石を金や銀で留める技術」が求められるようになり、甲府の職人たちはいち早くそれに対応しました。昭和に入ると、甲府には多くの加工工場や職人の町工場が立ち並び、「ジュエリーなら甲府」と呼ばれるほどに。

1970〜80年代には国内シェアの7〜8割を占めるまで成長し、現在も日本最大のジュエリー生産地として知られています。

特徴:手仕事と精密加工の融合

甲府の強みは、なんといっても繊細な手作業技術と精密な加工技術の両立です。
伝統的な手作業の彫金や石留めに加え、現在ではCAD設計や3Dプリンターによる原型製作自動ロウ付けラインなどの現代的な技術も導入されています。

また、甲府のジュエリーはOEM(他社ブランド製造)も多く、名だたる国内ブランドの裏側を支える「縁の下の力持ち」的存在でもあります。

なぜ甲府がここまで宝飾と深く結びついたのか?
以下の記事で、その理由を歴史や地域文化を紐解きながら解説しています。

#1 なぜ甲府は「宝飾の街」と呼ばれるのか?
この記事では、山梨県甲府市がなぜ「宝飾の街」と呼ばれているのか?歴史・地名・文化的背景を織り交ぜて深掘りしてみました。

御徒町(東京都台東区) — 宝飾流通の心臓部

宝石・貴金属の集積地

東京・上野から徒歩圏内にある御徒町(おかちまち)は、日本の宝飾流通の中心地です。
駅周辺には、貴金属の地金問屋、宝石商、工具店、製造工房、買取店などが密集。
まさに「ジュエリーの総合市場」といえるエリアです。

戦後の闇市から始まった街の再生

御徒町が宝飾の街となったきっかけは、戦後の闇市にあります。
当時、物資不足の中で「金や宝石」が価値を保つ資産として重宝され、多くの職人や商人がこの地に集まりました。
その流れが現在まで続き、御徒町は仕入れから販売までが完結する街となったのです。

特徴 : スピードとネットワーク

御徒町の最大の強みは、圧倒的なスピード感と情報の集約力です。
たとえば、「デザイナーが石を買って、加工職人に渡し、すぐに製品化して販売まで行う」ことが、すべて徒歩圏内で完結します。

業者同士の距離が近く、情報交換も盛んなため、新しいトレンドがいち早く生まれる街でもあります。
まさに「日本の宝飾業界の心臓部」といえるでしょう。

神戸(兵庫県) — 洗練されたブランドとデザイン文化

開港とともに発展した洋風ジュエリー文化

神戸の宝飾産業は、明治期の開港により外国文化が流入したことから始まりました。
異人館街に代表されるように、西洋のデザインや感性が早くから根づいた土地柄で、ジュエリーにおいてもヨーロッパ風のデザイン文化が花開きました。

ブランド系ジュエリーが強い

甲府が製造、御徒町が流通に強いのに対し、神戸はデザインとブランド発信力特徴です。
海外のトレンドを敏感に取り入れ、高級感とファッション性を両立したジュエリーを展開する企業が多く存在します。

ブライダルジュエリーやファッションブランドとのコラボなど、消費者の感性に寄り添う製品づくりが得意です。

地域ごとの役割分担が日本の宝飾文化を支える

このように、

  • ・ 甲府・・・製造の中心地(職人と加工の街)
  • ・ 御徒町・・・流通・販売の中心地(市場と情報の街)
  • ・ 神戸・・・デザイン・ブランドの中心地(発信と感性の街)

と、それぞれの地域が異なる強みを持ち、互いに補完しあっています。

たとえば、
甲府で製造されたジュエリーが御徒町を経由して流通し、神戸のブランドとして全国へ広がる――
そんな「日本ならではの連携ネットワーク」が、宝飾産業を支えているのです。

今後の展望 ― 伝統とテクノロジーの融合へ

近年、ジュエリー業界は大きな変化を迎えています。
3DプリントやAIデザイン、デジタル販売などの技術革新が進む一方で、「手仕事の温かみ」への価値も見直されています。

甲府では自動化と職人技の融合、御徒町ではオンライン取引やBtoBマーケットの拡大、神戸では感性とブランディングの深化が進行中。
いずれの地域も、「伝統×テクノロジー」をキーワードに次の時代へ向かっています。

まとめ

甲府・御徒町・神戸――
この三つの街には、長年培われた技術、職人の誇り、そして時代の変化に柔軟に対応する知恵があります。
三つの地域がそれぞれの強みを活かし、連携しながら発展してきました。

甲府は精密な加工技術、御徒町は流通と情報、神戸はデザインとブランド発信力。
伝統と最新技術が融合する今、これらの街は“日本のものづくり精神”を象徴する存在として、次の時代のジュエリー文化を紡いでいます。

       
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